ココ・ファーム&ワイナリー Coco Farm & Winery (栃木県足利市)

葡萄畑と醸造場
1950年代、少年たちによって開かれた山の葡萄畑は、開墾以来、除草剤が撒かれたことがありません。 1980年に誕生したこの山の麓のココ・ファーム・ワイナリーは、1984年からワインづくりをスタート。 2007年より100%日本の葡萄からワインをつくり、現在、ココ・ファーム・ワイナリーの自家製ワインはすべて「日本ワイン」です。 自家畑では化学肥料や除草剤は一切使わず、醸造場での醗酵も天然の野生酵母や野生乳酸菌が中心。“こんなワインになりたい”という葡萄の声に耳を澄ませ、その持ち味を生かすことを大切にしています。

葡萄畑について
●1950年代、急斜面の山を開墾
1950年代、当時の特殊学級の中学生たちとその担任教師(川田昇 かわたのぼる:1920年12月18日-2010年12月17日)によって開墾されたこころみ学園の葡萄畑。足利の北の山にあるこの葡萄畑は平均斜度38度の急斜面です。なぜこんな山の奥に葡萄畑を開墾したのでしょう? それは、一介の教師には、平らな土地に農地を得ることができず、山奥の急斜面を開墾するしかなかったからでした。
しかし、このこころみ学園の葡萄畑は、南西向きの急斜面であるため陽あたりがよく、水はけがよく、葡萄にとってなかなか良い条件です。また、この急斜面は葡萄の生育によいだけでなく、障害を持ってかわいそうと過保護にされ、あてにされることもなかった子どもたちにとっても、大切な役割を果たしてきました。
葡萄畑の南側から草を刈りだして、葡萄畑の北側が刈り終わる頃には、また南側の草が茂ってきます。また南側から草を刈りだして、葡萄畑の北側が刈り終わる頃には、またまた南側の草が茂ってくる・・・。除草剤を撒いてしまうと、子どもたちのやることがなくなってしまいますから、この葡萄畑は開墾以来、除草剤を一切撒いたことがありません。除草剤を一切撒かない葡萄畑にはいろいろな草花がしげり、たくさんの虫が寄ってきます。その草花や虫たちを求めてたくさんの鳥たちもやってくる葡萄畑。秋になると葡萄の実を狙う鳥を追い払うために、朝から晩までカンをたたくという仕事が必要になります。 こうして365日やってもやってもやり尽くせない仕事を用意することができました。

●地道な農作業を続けて
知恵が遅れているから何もできないと思われ、何もやらせてもらえなくて赤ん坊の手のようだった少年たちの手は、毎日葡萄畑にいるうちに、たくましい関節のある農夫の手になってきました。都会の自宅で、夜中にあばれて、家のガラス戸を全部割ってしまったという少年が、この急斜面をみんなについて登って降りてしていくうちに、お腹がすいてちゃんと食べて、ぐっすり眠って・・・この山の急斜面は、葡萄のためだけでなく、知的な障害のせいで自分自身をコントロールできないでいた子どもたちが、心身を安定させていくためにかけがえのない役割を果たしてきました。
またこの急斜面には車両や大型機械が入りませんから、何でも人間の手でやらなければなりません。今、世界の自然派と呼ばれるワインづくりの人たちは「葡萄畑の一番いい肥料は農夫の足音だ」と言っています。重い車両や機械はその重みで土を固く踏み固めてしまい、水や空気の通り道をつぶしてしまうのです。ここの農夫たちは葡萄畑の虫をひとつひとつつまんで取り除いたり、病気になってしまった葉っぱや粒を一枚一枚丁寧に拭いたり取り除いたり、また、葡萄の一房一房に笠をかけたり・・・。 急斜面のため人間の手でやるしかないこつこつとした農作業が、上質なワインを生み出す手がかりになっているのかも知れません。

<困難を魅力にかえた葡萄畑、3つの特長>

1 貧しくて貧しくて平らな農地が手に入らず、やむなく開墾した山の急斜面は、陽あたりや水はけがよく葡萄にとってなかなかよい条件であったこと。
2 山の急斜面で、炎天下に草を刈り、寒風のなか、剪定後の枝を拾う農作業は、暑い我慢、寒い我慢を通して少年たちの耐久力を鍛え、急斜面での移動は屋内や平所では養えない臨機応変の注意力をよびおこすこと
3 急斜面なので大型車両や重機が入らないため土がやわらかく、除草剤を一切撒いたことのない健康な土は、微生物をはじめ、草花や、虫や鳥や、動物や人間など、さまざまな命をはぐくんでいること。

●自家畑 栽培データ

【エリア】
こころみ学園の葡萄畑をはじめとする、5つの自家畑は、栃木県南部の足利市と佐野市に位置しています。北緯 36°21〜22′ 東経 139°28〜31′ 海抜 50〜200m。自家畑の総面積は約6ヘクタールです。

【栽培品種】
自家畑では、マスカット・ベーリーA、リースリング・リオン、小公子などの日本固有の葡萄品種や、プティ・マンサン、ノートン、タナ、ヴィニョール、カベルネ・ソーヴィニョンなど、世界的な葡萄品種を栽培しています。いずれも北関東の気候風土にあった適地適品種のワイン用葡萄品種です。

ワインづくりのこと
●適地適品種のワインづくり
ココ・ファーム・ワイナリーでは、野生酵母(天然の自生酵母)を中心に醗酵を行っています。マロラクティック醗酵(MLF)も野生乳酸菌によって自然に行われることがよくあります。野生酵母を使うのは、葡萄本来の自然の持ち味を引き出して、上質なワインをつくるためです。目に見えない微生物の力や、元気な土壌から生まれる元気な葡萄の潜在力を大切に生かしたいと思います。

ワインを葡萄畑からつくるために、ココ・ファーム・ワイナリーでは、適地適品種の考え方を取り入れています。各々の土地や土壌や気候風土のなかで無理なく元気に育つこと。そんな葡萄品種を選ぶことよって、病気にかかりにくかったり、虫の害があっても自分の力で回復することができやすくなります。回復力があれば、余計な消毒もしなくてすみます。

ココ・ファーム・ワイナリーの足利や佐野の自家畑では、2000年を機に、気候変動に対応した葡萄品種を少しずつ植樹してきました。日本の風土の中で栽培されてきたマスカット・ベイリーA、リースリング・リオン、小公子・・・、世界各地から探してきた、ノートン、タナ、プティ・マンサンなどです。いずれも高温多湿によく耐え、決して有名な葡萄品種ではないけれど、実に魅力的な品種です。
この個性的な葡萄品種から生まれるワインは、スパークリングワイン「NOVOブリュット」「NOVOドゥミセック」、赤ワイン「第一楽章」「第二楽章」「こころみノートン」「赤見のぼっこ」、白ワイン「プティ・マンサン」「田島川右岸」、デザートワイン「マタヤローネ」など。スパークリングワインからデザートワインまで、100%自家畑の葡萄からいわゆるドメイヌもの(自家畑自家醸造)のワインです。
一方、北海道、山形、長野、山梨、埼玉、そして栃木など日本各地の契約栽培農家さんたちとタッグを組んで、それぞれの土地に適したお得意の葡萄をつくっていただいています。自家製ワインを100%日本の葡萄からつくれるのも契約栽培農家さんたちのおかげです。

ワインづくりは、醸造場だけの仕事ではありません。葡萄畑に、太陽や土壌や雨風などの気候風土、野生酵母や野生乳酸菌などの微生物、草花や虫や鳥や人間という生物が共生する、いのちがわきたつような仕事です。科学のバックボーンを持ちながら、祈ることや、歌うことに近いなかなか愉快なところもあります。熟成のための長い時間も、人間の手の及ばぬところです。
これからも自然に敬意をもって寄り添い、広く深く学んでいきたいと思います。
葡萄が元気にその魅力を最大限に発揮できるよう、「葡萄がなりたいワインになれるよう」、葡萄の声に耳を澄ませ、ワインをつくって参ります。

●自然に寄り添って
1984年からワインづくりをはじめたココ・ファーム・ワイナリーでは、現在、スパークリング・ワインから、白ワイン、ロゼワイン、赤ワイン、そしてデザートワインまで、葡萄本来の味わいを大切にしながらいろいろなワインを醸造しています。ワインづくりは葡萄畑で行われると考える私たちにとって、野生酵母による醗酵は自然の流れでした。現在、スパークリング・ワインのビン内二次醗酵のための酵母を除いて、ほとんどすべてのワインは野生酵母での醗酵によるものです。

自然に寄り添ってつくるワインは、醗酵時期もいろいろです。8月に収穫を迎えるヌーボー(新酒)は2ヶ月後にビン詰めされますし、なかには翌春を過ぎても醗酵がつづくワインや、野生乳酸菌によってマロラクティック醗酵中のワインもあります。ヌーボー(新酒)や地下のセラーの樽の中で、静かに長期熟成中のワインもあります。
山の胎内に夏涼しく冬暖かいセラーをつくったり、山林の間伐材や剪定後の葡萄の枝で薪ストーブを焚いたり、葡萄畑に手押しポンプの井戸を掘ったり、太陽光発電の設置や、ワインを絞った後の果皮や種の再利用など、ココ・ファーム・ワイナリーでは設備面や環境面でも自然をとりいれたワインづくりを心がけています。

また、2012年に北海道岩見沢に設立された10Rワイナリー※で、キュベ(原酒)をつくり、足利のココ・ファーム・ワイナリーでビン内二次醗酵やルミュアージュ、デゴルジュマン、ドザージュなどを行うスパークリング・ワイン「北ののぼ」や、10Rとココ・ファームのコラボレーションによる「こことあるシリーズ」もあります。
※合同会社10R代表Bruce Gutloveは、1999年より有限会社ココ・ファーム・ワイナリー取締役、現在はこころみ学園評議員も兼任しています。

私たちはお飲みいただくワインについて、くまなくお知らせすることを大切に考えています。
そのためそれぞれのワインのセパージュ(葡萄品種)や畑、収穫時期や収穫時の糖度、野生酵母による醗酵や野生乳酸菌によるマロラクティック醗酵(MLF:Malolactic Fermentation)の様子、アルコール分・酸度・残糖など分析値、樽熟成の期間などワインづくりに関するデータをはじめ、ワインの飲み頃予測やワインとお料理の組み合わせ(マリアージュ)なども、ワインの裏ラベルにあるQRコード、またはワインデータシート一覧からご覧いただけます。

一方、1989年、こころみ学園の園生たちがカリフォルニアの大地に葡萄の苗木を植えたことをご縁に、ココだけのカリフォルニアワインもあります。このワインはこころみ学園の旧友、マット・クラインさんが現地で醸造しビン詰めし、“Friends of COCO”のワインとして日本に輸出しています。

●飲む人の笑顔を楽しみに
「消えて無くなるものに渾身の力を注げ」・・・こころみ学園の川田昇園長がこんな言葉を残してくれました。毎日の朝昼晩の食事も食べてしまえば無くなります。秋ごとに仕込むワインも飲んでしまえば無くなります。大きな自然の力の前では、人間は非力で、できることはほんのわずか。でも、その人間ができるほんのわずかなことを、労を惜しまず精一杯やりたいと思います。

私たちのワインづくりには、植物や微生物とともに、眼には見えないいろいろないのちが関わっています。いろいろな野生酵母が、つぎつぎに力を発揮していくように、老若男女、障害の有無や国籍の違いをこえて、それぞれが力を出しあって働いています。PRODUCT OF SUN,SOIL AND SINCERITY ・・・太陽と土とまごころから、おいしいワインをつくることは私たちの楽しみでもあり、励みでもあります。

土を耕すことからはじめてグラスにワインが注がれるまで、ワインづくりには最低でも10年以上の時間や手間がかかります。私たちのワインづくりはおかげさまで、葡萄畑開墾から63年、ワインづくりは今年で38年目になります。しかし世界各地の先達(せんだつ)たちの仕事を見るとき、私たちはワインの仕込みの秋を38回迎えただけの、ほんの駆け出しであることを感じずにはいられません。
太陽や土や空や森の味わい、つつましい喜び、バランスよく洗練されていて、歳月に耐えることができるワイン・・・、美しい音楽や絵画のようなワイン・・・。そんなワインへの道のりは、ご愛飲くださる方や、ワインショップやソムリエやシェフの方たちが、ご一緒に歩いてくださってこそはじめて可能になることです。

ますます謙虚に精進すべき私たちにとって、私たちのワインが、夕餉の食卓で、街の食堂で、お祝いのテーブルで、あなたの笑顔とともにあることができたら、こんなに嬉しいことはありません。もしあなたが、かなしみのなかにあるときは、そっと寄り添ってありたいのです。
末永くご一緒に歩んでいただけますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
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